天吹の作り方
材料
ホテイチク(鹿児島ではコサンダケと呼びます)の根元の部分を使用します。。大田氏の作った天吹にはマダケを材料としたものもありますが、コサンダケにこだわっておられたそうですから、コサンダケが本来の材料だと思われます。素朴な楽器であまり手を入れないので材料そのものの良し悪しが、笛の良し悪しに直結します。良い材料を求めて県内ばかりでなく、時には県外まで足を延ばすことになるわけです。
まず、竹林を探さなければなりません。竹林は山中にはなく、田の周辺の小川の土手など集落周辺にあります。コサンダケはつる性野菜の支柱として必須のものだったので里山に植栽され利用されたのでしょう。支柱にコサンダケが使用されなくなり、荒れた竹林が目につくようになり、年々良い竹を探すのが難しくなっています。。
竹林を発見すると、腰をかがめて分け入ることになります。足元が悪いところが多く、枝が交差しています。滑らないように、目をつつかないように気を付けながら適当な竹を探します。
伝承として、管尻から一節まで指2本。1節と2節の間隔が一握り、2節と3節の間隔が一握りと指2本、3節から歌口までが一握りとなっているので、それに合った竹を探します。一節から管尻までは指2本以上、三節から歌口までは一握り以上の長さがあればよいことになります。根元を見て見当をつけ、手をさし伸ばし当ててみます。節間隔がよさそうであれば、3節の上の節の上部を切ります。次に1節の下の節の下部を切ります。各人の指の太さで長さは変わりますが、菅尻から歌口まで1対2対3対2という比率を取れればよいことになります。勿論竹の太さも重要で、歌口の部分の外径が22ミリ前後。内径13ミリ程度。竹の厚み、質も音色に関係してきます。薄いものは全く適しません。ほどほどの厚さで身の詰まったものが適しています。以上の条件を満たす竹はなかなか見つからないので、冒頭に述べたように県外まで探し求めることになるわけです。竹の姿について伝承が残っています。「竹はコサンの3年竹で、いっびらにまがい」というもので、一に平たく二に曲がっているのがよいということでしょうが、この条件まで加えると天吹作りの人生でそんな竹にはめったに出会えないでしょう。逆に言えばそんな竹を探し出した時の喜びは言い表しようもありません。
油抜き
持ち帰った竹は、洗って油を抜きます。昔は炭火であぶったのでしょうが、家庭のガスコンロで出来ます。油抜きをしない作り方もあったようです。
上部と下部を切る
伝承通りに一節から下部指2本。三節から上部一握りで切ります。
節を抜く
2節と3節は隔壁をすべて抜きます。1節は3ミリ程度の小孔を開けます。この小孔が大きすぎると音色が鈍くなり、天吹らしい澄み切った音になりません。また小さすぎると低音が鳴りにくくなります。
指孔の位置を決め、孔を開ける
まず、縦の線を決めます。尺八の演奏者をイメージして吹く構えをします。持ちやすい形から前面を決めます。その中央に歌口から一節まで鉛筆で縦線を入れます。裏面の3節から2節にかけて前面の縦線の真裏に縦線を入れます。次に孔間隔を決め、縦線と交差させて孔の中心を決めます。孔間隔の決め方ですが、伝承によるとまず2節と3節の間の周囲をひもで回し、長さをとります。その長さの半分をとり、その真ん中が2節の上になるように置きます。その紐の両端が2孔と3孔の位置です。つまり、2節からの2孔と3孔の位置は、2節と3節の間の周囲の長さの4分の1ということになります。各孔の間隔は等距離と言う決まりがあるので、2孔3孔間の長さを移行して1孔、4孔、5孔(裏孔)の位置を決めることが出来ます。5孔の位置はまず前面に印をつけ、それを裏面の縦の線上に移動させます。それぞれの孔の中心に印をつけておき、三つ目切りで穴を開け、細い小刀で形を整えます。前面の孔は5ミリ、裏孔は4ミリ、裏孔は旋律には用いないオクターブ孔なので、小さくてもよいことになります。孔は内部を広げます。内部の広げかたによって音量や音程が変わります。現在の孔間隔の決め方は、2孔と3孔は第2節から同じ長さ、また各孔間隔は同じという原則を守り、各自の工夫で行っています。
この孔間隔をどうやって決めるのか、最後の伝承者大田氏に師事した白尾國利氏は、演奏を習得するのが急務だとして作り方は習っていませんでした。ところが、大田氏が病に臥して亡くなってしまいます。白尾氏はその後古老を訪ね歩き、前述の孔間隔をどうやって決めるか、これが正しいと確信を得るまで3年を要したといいます。最後に訪問した佐々木勇清氏が、いとも簡単に孔位置を決める手順を述べられた時の気持ちを「嬉しかったのはもちろんであるが、それまでの心労を思うとき、がっかりしたような妙な気持であった」と記しています。
歌口を作る
前面に引いた線が歌口の部分に達している上端部分を内部から舌状にえぐります。上端は1ミリ程度の厚さにしておきます。図1。次に内部のえぐった部分に合わせて外側を削り取りエッヂを作ります。図2。そして内側から1ミリの厚みを削って成形します。図3。
歌口の作り方には、広く作るもう一系統がありました。図4。天吹は残っていますが、作り方は伝承されていないので、現在この歌口の形で作る会員はいません。
ある程度完成したら、吹きながら調整します。歌口は薄く一削りするだけで、音量や吹きやすさが変わるので、これで終わりという決断がなかなかできません。
白尾氏は最初の頃、伝承通りに作ってもなかなか正しい音程の天吹が出来ずに悩んだと言います。そんな時、尺八製作研究家の西川理山氏より名管を真似せよという助言を受け、飛躍的に歩留まりが良くなったそうです。明治の名人野村直助氏はその口述で「天吹の作り方はうまくいかないものだ。私はもう数十本作ってみたけれども自身の気に入ったものは十に一つもない」と述べています。現在は手ごろな竹さえ見つかれば、ほとんどの場合音程の正しい天吹を作ることが出来ます。天吹製作については過去に比べて現在の方が進化しているかもしれません。