天吹の吹き方と伝承曲

持ち方

 

右手が下、左手が上に来ます。右手の中指と親指で挟むようにして管を支え、薬指と人差し指で1孔と2孔ををふさぎます。左手も同じように孔間に中指を当て薬指と人差し指で3孔と4孔ををふさぎ、親指で裏孔をふさぎます。
右図のように、右手を上にする持ち方もあったようです。文化9年(1812)(「白尾國柱著 倭文麻環・しづのをだまき」より) 大田氏によると、昔は天吹は右手を上にして吹いたものだということです。天吹を吹いている所を急に斬りつけられた時に、左手の天吹で刃を防ぎ、次いで右手で刀を抜くためとのこと。今村貞治氏も同じ話をされており、一般に言われていたことのようです。

 

息の当て方

 

腹式呼吸

美しい音色を持続するためには腹式呼吸が不可欠です。腹式呼吸は息を利用する楽器の根本です。常に腹式呼吸を念頭に置いて練習をすることが大事です。

伝承曲

大田良一氏が伝承していた7曲がすべてです。「シラベ」「ツツネ」「タカネ」「アノヤマ」「イチヤナ」「センペサン」「テンノシヤマ」の7曲で、楽譜も唱歌(しょうが)もありません。すべて口頭伝承によります。白尾氏は「習い始めた最初の日は、大田氏の吹かれるのをただ呆然と見ているだけだった」と述べています。そこで氏は手がかりを得ようと、大田氏にそれぞれの曲の最初と最後の音を吹いてもらって主音の見当をつけ、都山流の尺八譜に写し取ったそうです。また五線譜にも書き表しています。現在の会員はその尺八譜を練習のよりどころにしています。

「シラベ」「ツツネ」「タカネ」の三曲は純器楽曲で、他の4曲には稚児唄風の歌詞があり、曲名もこの歌詞の冒頭から取られています。

たとえば「センペサン」は、「センペサアンセンペサアン、サッシャグチャユタイドン」で始まる歌詞が伝わっています。センペサンは実在の人物名です。4曲とも、歌は今日ほとんど伝承されていません。始めから歌があったのか、後から戯れ歌として付いたのか、はっきり分かりません。大田氏は「天吹曲は元来歌はない。後でつけた歌はある。」と言っておられたそうです。

七曲はいずれも20数秒から4分程度の短い曲です。「テンノシヤマ」は比較的拍を取りやすいので、同好会では、みなこの曲から練習を始めています。他の6曲は拍のない自由リズムで奏されます。「センペサン」は踊るようなリズム感があり、「シラべ」「ツツネ」「タカネ」はゆっくりしたテンポで落ち着いています。「アノヤマ」「イチヤナ」は歌詞がありますが、器楽曲風でもあります。大田氏の師である明治の名人野村直助氏は「天吹の名曲と申すならば、まずアノヤマ、タカネ、ツツネで」と言っておられます。使われる音型の多くは各曲に共通したものですが、独自の奏法や音の動き、リズム感の相違などから、短いながらにそれぞれ異なった趣が感じられます。

天吹曲の特徴は、フレーズごとにパッと指を開けるところにありますが、そこに古風さを感じるという音楽研究家もいます。「シラべ」は短いなかに天吹の基本奏法と特徴が凝縮されており、大田氏は「シラベ」が吹ければ他の曲は難しくないと言っておられます。確かにその通りで、「シラベ」の中には孔を覆いながら同時にあごを引き2度下がる部分などがありますが、その技法をマスターするのは容易ではありません。「ツツネ」は恐らく「筒音」の意味で、この曲では筒音による最低音からの独自の旋律が聞かれます。伝承曲中最も長い曲です。「タカネ」は「高音」、すなわち高音域の旋律もしくは曲の意味と思われます。天吹の最高音ファは、この曲にだけ使われます。

参考として運指表、「テンノシヤマ」と「シラベ」の尺八譜とその運指、五線譜を本「天吹」から転載します。また白尾氏の「シラベ」の演奏を掲載します。大田氏の演奏に比すると、白尾氏の演奏は手が簡素な印象を受けますが、大田氏が琵琶の名手であったので、その歌の細かい動きが天吹に反映されていると考えられます。事実現同好会員にも琵琶奏者がおり、大田氏と同じ傾向がみられるようです。